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菊竹清訓建築を探訪する - 東光園, 島根県立美術館


概要

メタボリズムを主導した菊竹清訓。松江市や米子市には菊竹建築が多く存在する。その菊竹建築を実際に訪問してきた。その一部を紹介する。また、メタボリズムについても簡単に触れる。

菊竹清訓という人

 菊竹清訓は、1928年、福岡県久留米市生まれの日本の建築家である。早稲田大学建築学科卒業後、竹中工務店などを経て菊竹清訓建築設計事務所を設立した。1959年には黒川紀章や槇文彦、大高正人らとともに日本発祥の建築運動・思想であるメタボリズムを提唱。東光園、江戸東京博物館など様々な建築に携わる。また、菊竹は多くの後進を育てた建築家としても有名であり、菊竹設計事務所出身の建築家としては伊東豊雄、内藤廣らがいる。

メタボリズムとは?

中銀カプセルタワービル

 菊竹清訓が黒川紀章らとともに主導した建築思想・運動がメタボリズムである。

 元々生物用語であるメタボリズムは、新陳代謝を意味する。それを建築や都市設計の世界にも適応しようと試みた思想・運動が建築におけるメタボリズムである。菊竹の「時間的秩序を機能主義に加える」(※1)という表現は端的にメタボリズムを表していると思われる。古くなった細胞をあえて壊し、新しい細胞に変えて生物の体を保つように、建築も古いユニットを新しいユニットに取り替えることにより建築を持続し発展させる。残念ながら老朽化により2022年に解体されてしまったが、黒川紀章設計の中銀カプセルタワービルが非常に象徴的である。カプセルが古くなれば新しいカプセルに交換するというコンセプトである(ただし実際にはカプセルを交換することはなかったらしい)。


 筆者の単なる感想であるが、このメタボリズム思想は仏教思想的であり、福岡伸一氏による動的平衡論を想起させる。実際主導者の一人である黒川紀章は、「現代日本建築家列伝」(※2)によれば仏教思想への造詣も深かったという。創造と破壊のある種の循環は、仏教思想における輪廻に影響を受けたと言われており、個人的には非常に興味深いポイントである。

※1 「復刻版 代謝建築論」 菊竹清訓 2008 彰国社

※2 「現代日本建築家列伝」 五十嵐太郎 2011 河出ブックス

菊竹清訓の建築(東光園, 島根県立美術館)

□ 東光園(鳥取県)

東光園(1)

 1964年に建設された東光園は菊竹清訓の代表作である。 鳥取県米子市に位置し、有名な温泉街の一つである皆生温泉街の一角に存在する。静寂と貴賓あふれる空間。皇室も利用される宿であり、日本海に面した客室からはオーシャンビューを楽しめる。5階、6階は最上部の大梁から吊り下げられ、4階部分はピロティーとなっている2段階ピロティー構造。庭園は、作庭家・彫刻家として著名な流政之の作品。登録有形文化財である本館「天台」の5階に宿泊したが、私が2023年に宿泊した際には1万円強程度と意外とリーズナブルであった。個人的な話だが、4階の空中庭園を含む、まだ見ていない館内のいくつかの場所がある。そのため、次回宿泊する際にはしっかりと探索するつもりだ。

東光園ファサード(1)
東光園ファサード(2)
東光園 庭園からの様子
東光園 ロビー

東光園は米子駅からバスで皆生温泉方面へ向かうと着く。米子駅周辺だと以下のような場所がある(周辺と言っても、車や電車、バスなどがないと回るのは厳しい...)。

□ 島根県立美術館(島根県)

 1999年開館。島根県松江市の宍道湖に面している。宍道湖と周囲の山陰の山々の自然と調和した、流線的で波状の建築。中に踏み入れると、ガラス張りで宍道湖を一望できる。また、仕切りの少ない空間設計となっており、連続的かつ非常に開放的である。まさに自然という一言につき、非常に落ち着く空間である。松江駅から1km程度と徒歩でも10分ほどで行けるため、お近くに行った際には是非足を運ばれると良いと思う。個人的には非常に好きな建築の一つ。

島根県立美術館の外からの様子(1)
島根県立美術館の外からの様子(3)
島根県立美術館の内部(1)
島根県立美術館の外からの様子(2)
島根県立美術館 展望テラスからの眺望
島根県立美術館の内部(2)

結び

今回は2つだけご紹介させていただいた。
島根・鳥取で訪問した菊竹建築は他にもいくつかある。

  • 島根県立図書館
  • 島根県立武道館

また、菊竹建築以外にも以下の場所を訪問した。

  • 島根県立古代出雲歴史博物館(槇文彦設計)
  • 島根県立産業交流会館(高松伸設計)
  • 植田正治写真美術館(高松伸設計)

今後もご紹介していきたい。